「第22回総合診療の指導力育成事業(徳島GMラウンド)」(2/15開催)
徳島県内で地域医療に携わる若手医師のキャリア形成支援事業の一環として、県内の臨床研修指定病院が持ち回りで実施している教育カンファレンス(徳島GMラウンド)の第22回を徳島県鳴門病院が担当いたしました。
今回は、講師として福井大学医学部附属病院 救急科 総合診療部教授 林寛之先生をお招きいたしました。本来なら昨年度に開催する予定でしたが、能登半島地震の災害医療に林先生が貢献されていましたので、1年越しの繰り越し開催となりました。コロナ禍明けで久々の現地開催でしたが、職種を超えて大勢の方にご参加いただきましたことに感謝しております。
林寛之先生には、症例検討から特別講演にいたるまで『総合診療医ドクターG』を間近で見せていただき、躍動感あふれるライブに時間を忘れて楽しく勉強させていただきました。
プログラムは以下の通りです。
日時:令和7年2月15日(土)
会場:徳島県鳴門病院3階大会議室
12:30~ 受付
13:25~ 13:30 開会挨拶: 香美 祥二先生(徳島県地域医療支援センター長)
13:30~ 14:35 症例検討
座長: 林 寛之先生
(福井大学医学部附属病院 救急科総診療部 教授)
発表: 椋本 浩文(徳島県鳴門病院 2年次研修医)
小林 哲也(徳島県鳴門病院 2年次研修医)
14:35~ 14:45 休憩
14:45~ 16:15 特別講演
座長: 住友 正幸(徳島県鳴門病院 病院長)
講師: 林 寛之先生(福井大学医学部附属病院 救急科総合診療部 教授)
テーマ:「初期研修ERサバイバル~ERの当たり前の法則~」
16:15~ 16:25 質疑応答
16:25~ 16:30 閉会挨拶: 住友 正幸(徳島県鳴門病院 病院長)
総合司会: 西 京子(徳島県鳴門病院 医療人育成センター長)
講師の林寛之先生が、『研修医当直御法度』などの人気著書やNHKのTV番組『総合診療医ドクターG』など多方面でご活躍されている高名な先生であり、当日の参加者は、初期研修医12名、医師30名、医学科学生17名、メディカルスタッフ(看護師)10名、事務13名の計82名と多数のご参加をいただきました。
- 症例検討では、研修医が症例提示した2症例について、林先生が研修医や学生たちと熱いカンファレンスを行ってくださりました。
- 症例1:3日前からの39℃台の発熱と食欲不振で前医を受診し、血液検査(WBC 9100/μL(Neut 80.3%),CRP 30.6 mg/dL)と単純CT撮影し腸炎疑いで当院に搬送された。
入院後は内科で保存的加療を行っていたが、7~8時間後に症状急変(腹痛が増悪、褐色嘔吐出現)した。造影CT検査を行い絞扼性腸閉塞が疑われ外科紹介となった。緊急手術で大量の小腸を切除し、術中所見から非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)と診断された。病理所見もNOMIを示唆していた。術後や退院後の経過は良好であった。
※鑑別診断を考えながら、問診を上手く聞き出す方法や、造影CT検査を躊躇なく行う重要性を学びました。またNOMI発症の誘因などについても考察していただきました。
- 症例2:分娩2時間後の子癇発作で院内コードブルーを発令した症例で、覚知時には痙攣発作は消失していたが(血圧126/77mmHg, 脈拍127/分)、呼びかけには応答なかった(E2V2M1)。左共同偏視があり頭部CTを施行(頭蓋内出血なし)後にICU入室した。再度強直間代性の痙攣発作が出現し、気道確保・酸素投与やジアゼパムの静注、硫酸マグネシウム投与にて意識状態は徐々に回復した。頭部MRI精査にて右後頭葉の皮質下白質に、T2WI・FLAIR・ADCmapで高信号所見あり、子癇発作に合併した可逆性後頭葉白質脳症(PRES)と診断した。その後は再発なく経過良好で退院した。
※若年女性の子癇では普段の血圧(症例2:90-100台/mmHg)を確認することが大事であり、また痙攣のタイプによる鑑別(10/20ルール)や対応、MRAのみならずMRV精査の重要性、PRESとRCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)の違いなどについてもご教示いただきました。
- 特別講演では、林先生自らが作られている動画や音響などを駆使されたスライドとテンポの良い巧みな話術に感動いたしました。何かおかしい見逃されやすい疾患やインフルエンザは万病の元であること、病態生理と関連した胃腸炎や腸閉塞などの症状が出る順など学ぶべきことは多々ありましたが、あらためて感銘を受けたことは、患者さんとのコミュニケーションに重要な 林の3K(肯定、共感、興味)でした。林先生の医療にかかわる姿勢や情熱は、研修医や医学科学生のみならず、医師・看護師・事務など参加された医療関係者全員に非常に刺激になったと思います。
第22回徳島GMラウンドは、終始林寛之先生の人間力に魅了され、盛況に終えることができました。最後に、徳島県地域医療支援センターの皆様、臨床研修指定病院をはじめ徳島県内医療機関の皆様のご協力の下、徳島県鳴門病院で現地開催することができましたことに感謝申し上げます。今後も若手医師のキャリア形成に対し、徳島県内の上級医・指導医、メディカルスタッフとともに取り組めることを願い、次にバトンを繋ぎたいと思います。
文責:西 京子(徳島県鳴門病院 医療人育成センター長)